大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8124号 判決

三和銀行

証拠を綜合すると次の事実が認められる。すなわち、訴外株式会社近太(以下破産会社と略称)は綿布化繊等の卸売を目的として昭和二十五年に設立された株式会社であるが、その設立当初から資金不足のため営業が思わしくなく、加えるに相次ぐデフレ政策と財界の不況との影響を強く受けて経営は次第に困難となり、遂に昭和二十九年六月二十八日店舗を閉鎖して支払を停止するに至つたこと、破産会社の同日現在における負債は取引先の訴外三綿株式会社ほか十数社に対し合計九百三十万円余の買掛金債務、訴外山本藤興吉ほか数名に対し合計約三百七十万円の金銭消費貸借債務を各負担していたほか、破産会社代表取締役大西次郎がその親戚知己の経営する会社をして振り出させ自らこれに裏書して被告株式会社三和銀行馬喰町支店その他から割引金融を受けた融通手形のうち満期未到来のもの十七通額面合計六百二十万円余、以上総計千九百二十万円余に達し資産としては売掛金債権百数十万円、手持商品五六百万円相当に過ぎず、右資産をもつて前記負債を完済することは到底不可能の状態にあつたこと、以上の各事実を認定することができるのである。又証拠によれば、破産会社と被告銀行馬喰町支店との手形取引は、従前から手形貸付手形割引をも含めて、手形の振出裏書等により右被告銀行支店が手形を取得したときには同時に手形金額を元金とし、手形の満期日を弁済期日とする消費貸借をも併せ成立せしめ、又手形割引に際してはその都度割引金額の一部をいわゆる歩積預金として被告銀行支店に預け、手形不渡の危険ないしは右消費貸借債務の担保たらしめる約旨の下に継続してなされて来たものであることを推認することができる。次に、他の証拠によれば、破産会社代表取締役大西次郎は、店舗閉鎖の直前前記のとおり不良な経理内容を十分知悉して事業の命運を察知し、その整理閉店を意図し、破産会社の各債務のうち親戚知己の経営する会社の信用を利用して融資を受けた前記融通手形のみを決済し、その振出人らに損害を与えないよう、そのためには前記各売掛金債務、消費貸借債務等の金額につき殆んど支払不能となることも已むを得ないとして、他店から仕入後間もない原価約六百万円相当の手持商品を二百数十万円で廉売し、その売得金等により昭和二十九年六月二十八日(支払停止の日)破産会社が被告銀行馬喰町支店から割引融資を受けた融通手形合計十二通額面合計四百十万四千八百五十円を同日全部一活買戻して決済したこと、そのため破産会社は売掛債権額百数十万円と数万円に相当する手持商品のほかは殆んど無資産となり、他の一般債権者に対する弁済が殆んど不可能に近い状態となるに至つたこと、以上の事実が認められる。

被告は、破産会社と被告銀行馬喰町支店との間の本件手形取得に関する取引関係は手形割引であるから、その法律的性質は手形の売買譲渡であると主張するが、本件各手形の割引が同時に消費貸借をも成立させる約旨の下になされたものであることは、前記認定のとおりであるから、右主張は理由がない。

而して右認定事実によれば、破産会社は一般債権者を害する結果を招来することを十分知りながら、敢て本件各手形を買戻し、同時に被告銀行馬喰町支店との間の消費貸借を消滅させたものというべきであつて、破産会社の右行為は、「破産者が支払の停止若しくは破産の申立のあつた後又はその前三十日内になした債務消滅に関する行為」であつて、「その時期が破産者の義務に属しないもの」として破産法第七十二条第四号に該当し、否認権の対象となるものと考えられる。被告は本件各手形の支払、買戻の当時全く善意であつて、破産債権者を害することを知らなかつた旨主張しているが、前記認定の如く、被告銀行馬喰町支店が破産会社に対し、その支払停止の日に満期未到来の約束手形計十二通を同時に一活売戻した事実を併せ考えると、寧ろ被告は、右支払停止の日破産会社が経営困難に陥り店舗を閉鎖し支払を停止したこと、若しくは支払停止の状態に陥るのであろうこと、従つて自己の債権につき弁済を受けるならば一般債権者の債権の回収が困難ないし不能となるであろうことを認識しながら、敢て本件各手形の支払、買戻に応じたものであることが推認されるから、被告の右主張は採用できないとして、原告の本訴請求を認容した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!